こんにちは、司法書士の村田です。

いよいよ年度末、3月もあと少しですね。
新たな出会いに別れ。
笑顔に涙。
新しい道へ進む門出の季節でもあります。
そして、学生あれば大学入学や入社に伴い、新たに一人暮らしを始める方もいらっしゃると思いますし、お勤めの方であれば、人事異動に伴い、引越しをされる方もいるかと思います。

それに先立ち1月~2月あたりから賃貸不動産の人の出入りも多くなる季節です。
入居・退去にあたって、礼金・敷金・保証金・更新料などよく耳にすると思いますし、敷引き・返還、金額の適正性などの問題もありますが、 それとは異なり、賃貸借に関わるもので最近受けたご相談がありました。
賃貸不動産の賃料(家賃)の増額請求と減額請求です。
増額請求は、賃貸人(家主)から行うもので、減額請求は、賃借人(借主)から行うもので、当事者は一緒ですが、まったく反対の請求になります。
ご相談を受けた方々は、それぞれまったく関係のない別々の方々だったのですが、同時期にすごいタイミングやなぁと思いました。
それぞれまったくお互いに利害関係のない方々なので、両方の相談を受けても業務上、利益相反には当たらないことを念のため申し上げておきます。

ということで、今回は、賃料の増額請求・減額請求についてです。

賃貸の賃料については、賃主は賃料増額請求ができますし(借地借家法32条1項)、逆に借主からは賃料減額請求ができます(借地借家法32条1項)。賃料増額・減額請求の要件としては次のようなものになります。

(賃料増額・減額請求が認められるための要件)
(1)土地や建物の租税・その他の負担の増加
(2)土地や建物の価格の上昇
(3)その他の経済事情の変動
(4)近隣の同種の建物の賃料に比べて不相当(高くor安く)となったとき

→現行の賃料が決定してから現在までにつき①~④を総合的に検討し、現行賃料が「不相当となったとき」に限り、増額もしくは減額が認められます。(認められる・認められないは別として、増額・減額の請求をすること自体は自由です。)

次に紛争解決の手段ですが、次の順序で進んでいくことになります。

1.話し合い
建物の賃貸借については、あくまでも当事者間の契約なので、賃料についても当事者間で決めるのが原則です。
→当事者間での話し合いで増額についてお互い合意し、解決するのであれば、話し合いにより改定された内容を法律専門家等に書面にしてもらう方がいいと思います。

→話し合いの段階で弁護士・司法書士などの法律専門家に交渉の依頼をすることも一つの手ではあるのですが、司法書士は紛争額が140万円以内(簡易裁判所管轄)のものでなければ、取り扱うことができず、行政書士は書面の作成はできますが、当事者の代理人となって相手方と交渉を行うことは法律上できません。

 2.調停
当事者間での話し合いで解決しない場合は、賃料増額・減額請求の調停を申立てることになります(民事調停法24条の2)。
→賃料の増額請求については、いきなり裁判手続きをとるのではなく、まず民事調停を申立てなければなりません(民事調停法24条の2)。これを調停前置主義といいます。

調停を申立てる先は、建物の所在地を管轄する簡易裁判所(尼崎市内であれば、尼崎簡易裁判所)です。

ここで民事調停とはなんぞや?と思われた方もいらっしゃると思うので、軽くご説明します。
調停は,通常の訴訟(裁判)と異なり,裁判官のほかに一般市民から選ばれた調停委員二人以上が加わって組織した調停委員会が当事者の言い分を聴き,必要があれば事実も調べ,法律的な評価をもとに条理に基づいて歩み寄りを促し,当事者の合意によって実情に即した解決を図ります。調停は,訴訟(裁判)ほどには手続が厳格ではないため,だれでも簡単に利用できる上,当事者は法律的な制約にとらわれず自由に言い分を述べることができるという利点があります。

3.訴訟(裁判)
調停がまとまらない場合は、賃料増額・減額請求訴訟を申立てることができます。
そして、賃料増額・減額請求訴訟において請求者は下記の5要件を主張立証していかなければなりません。(要件事実)
(1)貸主と借主が対象の建物の賃貸借契約を締結したこと
(2)貸主が借主に対して、対象の建物を貸し渡したこと
(3)賃料額が不相当となったことを基礎づける事実
(4)貸主(借主)が借主(貸主)に対して、賃料を増額(減額)する旨の意思表示をしたこと及びその意思表示が到達した時期
(5)増額・減額後の賃料の額

**結論が出るまでの賃料の支払いはどうするの?**
ここで、賃料増額請求において、借主は調停が成立するまで、もしくは増額が正当とする裁判が確定するまでは、自分(借主)が正当と考える賃料(減額主張額)を支払えば、債務不履行の責任を免れることができます(借地借家法32条2項)。また、貸主がその受領を拒否した場合は、その賃料額を供託すれば、債務不履行責任を免れることができます。
ただし、その裁判が確定した場合に、借主の支払額に不足があれば、その不足額に年1割(10%)の割合による支払期以降の利息を付加して支払わなければなりません。

逆に賃料減額請求において、借主は調停が成立するまで、もしくは減額が正当とする裁判が確定するまでは、貸主が正当と考える賃料を支払わなければなりません。通常は今までの現行の家賃となります。貸主が正当と考える金額を支払わなければ、債務不履行の責任を免れることができません(借地借家法32条3項)。そして、貸主がその受領を拒否した場合は、その金額を供託すれば、債務不履行責任を免れることができます。
ただし、賃料減額請求の調停ないしは裁判が確定した場合に、貸主がすでに支払いを受けた額が正当とされた家賃(減額された家賃)の額を超えるときは、貸主は、その超過額に年1割(10%)の割合による受領の時からの利息を付加して返還しなければなりません(借地借家法32条3項)。

4.手続きの流れ
賃料の増額・減額請求の手続きの流れをまとめますと次のようになります。

① 当事者間で話し合い → 話合いでまとまれば、合意書の作成をする。

↓ ↓ ↓ まとまらなければ…

② 調停申し立て → 管轄の簡易裁判所へ申立て 現行の賃料を家主へ払い続ける。調停委員と当事者間での話合い。

↓ ↓ ↓ 成立しなければ…

③ 裁判申立て → お互いが言い分について主張・立証・反論を行う。司法委員を介して三者による和解の話合い。

↓ ↓ ↓ 和解が成立しなければ…

④ 判決
→ 賃料増額請求に勝訴すれば、借主に不足分について年10%の割合による支払期以降の利息を付加しての支払わなければなりません。
→ 賃料減額請求に勝訴すれば、貸主に超過分についての年10%の利息を付加して返還しなければなりません。

このように賃料の増額・減額請求については、調停前置主義が採られていることが特徴的です。
平たく言うと、「争うんじゃなくて、第三者を介して何とか話合いで解決しましょうよ」ということでしょうかね。そのため、法律にそこまで詳しくなくても請求者ご本人さんが弁護士・司法書士など代理人を立てずに行うことも比較的し易いと思います。

しかし、その後調停が不成立となり、さらに訴訟提起まですると、当然のことながら実体的にも手続き的にも法的知識が要求されますし、得られる利益に比べて、時間も労力もかなりの負担になります。また、解決まで賃借人は、毎月賃料の供託手続が必要になりますし、賃貸人も裁判官の心証を鑑みると取戻請求もしにくくなります。
そういった意味では、請求者ご本人が行うのは中々しんどいかもしれませんね。